一蘭のマーケティング戦略|味集中カウンターとオーダーシステムの仕組みを解説

一蘭は、天然とんこつラーメンに特化した福岡発のラーメンチェーンです。株式会社一蘭が運営し、国内外で高い認知度を持っています。本記事では、一蘭のマーケティング戦略を業績・コンセプト・顧客体験・4P分析の観点から整理します。
一蘭の強さの中心は、味だけに集中できる「味集中カウンター」と、好みを7項目から選べる「オーダー用紙」の2つにあります。どちらも一蘭らしい独自の顧客体験です。周囲を気にせず食べられる環境づくりや、多言語対応のオーダー用紙によって、女性客や海外のお客様にも利用しやすい仕組みになっています。
これらの仕組みは大手だけのものではありません。中小の飲食店が集客やリピート施策に応用できる視点を、本記事の後半でまとめています。
一蘭を運営する株式会社一蘭の概要と業績
一蘭は、福岡市博多区に本社を置く株式会社一蘭が運営しています。天然とんこつラーメンの専門店として、福岡を中心に全国へ店舗を広げてきました。海外にも出店し、ラーメンチェーンとして高い知名度を持っています。
創業は1960年です。会社としての設立は1993年です。代表取締役は吉冨学氏が務めています。事業内容は飲食店業とサービス業です。決算月は12月です。
公式の会社概要によると、年商は477.1億円です。2025年度の実績です。店舗数は92店舗です。2026年5月時点の数字で、国内84店舗、海外8店舗という内訳です。従業員は社員802名、アルバイト10,846名です。2026年2月時点の人数です。
※数値は株式会社一蘭の公式サイト「会社概要」に基づきます。一蘭は非上場のため、上場企業のような決算開示は行われていません。
非上場と直営にこだわる経営方針
一蘭は株式を公開していません。さらにフランチャイズ展開もしていません。出店はすべて直営です。フランチャイズの引き合いがある中でも、直営を貫いています。
その理由は、品質と従業員の育成を重視しているためです。従業員の成長に合わせて着実に出店することで、安定して長く続く企業をめざす方針です。味とサービスの均一性を全店で保つうえで、直営は有効な選択といえます。
世界一の研究会社を掲げる姿勢
一蘭は「天然とんこつラーメンを世界一研究する会社」を掲げています。メニューはとんこつラーメンに絞り込んでいます。焦点を絞ることで、専属の職人が研究と技術をひとつの味に注いでいます。
この一点集中の姿勢は、ブランドの方向性を明確にします。消費者から見て「一蘭といえばとんこつ」という結びつきが強くなります。商品を絞ることが、かえって認知を高める結果につながっています。
一蘭のマーケティングを支えるコンセプト
一蘭のマーケティングは、独自の顧客体験を軸に組み立てられています。中心にあるのが、公式に「五つの元祖」と呼ばれる要素です。赤い秘伝のたれ、臭みのないとんこつスープ、味集中カウンター、オーダー用紙、替玉注文システムの5つです。
この5つは、いずれも一蘭が生み出したと位置づけられている要素です。味そのものだけでなく、食べ方や注文の仕方まで含めて独自性を設計しています。商品と体験の両面で差別化している点が特徴です。
ターゲットとして女性客を重視
一蘭の体験設計は、女性客への配慮から生まれました。ラーメン店は女性がひとりで入りにくい、という課題に向き合った結果です。周りの視線を気にせず食べられる環境を整えることで、新しい客層を取り込んできました。
味集中カウンターも替玉の注文方法も、女性客から喜ばれる仕組みとして説明されています。来店しにくかった層に向けて環境を整えることは、商圏を広げる発想につながります。
味集中カウンターという体験設計
味集中カウンターは、一蘭を象徴する仕組みです。左右を仕切り板で区切り、正面には暖簾を下ろします。お客様は周りを気にせず、目の前の一杯だけに向き合えます。
このカウンターは多くのお客様に喜ばれています。公式情報でも、味集中カウンターは女性のお客様に喜ばれている仕組みとして紹介されています。周りを気にせず食べられる環境は、さまざまなお客様が利用しやすい体験づくりにつながっていると考えられます。
自律神経に着目した設計思想
一蘭は、味集中カウンターを自律神経の働きから説明しています。人は緊張時に交感神経が優位になります。この状態では、おいしさを十分に感じにくいとされます。
一方でリラックス時には副交感神経が優位になります。一蘭はこの状態を「吸収モード」と表現しています。仕切られた空間に座ることで、緊張からリラックスへ切り替わり、味をより強く感じられるという考え方です。
味集中カウンターの誕生秘話
味集中カウンターは、代表の吉冨氏の体験から生まれました。学生時代、ある食堂でアルバイトをしていたときの出来事がきっかけです。同じ味のラーメンでも、誰が作ったと伝えるかで、お客様の感じ方が変わったといいます。
ここから「人は誰が作ったかで味の感じ方が変わる」という気づきを得ました。作り手の印象を一切なくし、一杯のラーメンだけと向き合える環境をつくる発想につながりました。
さらに1号店の開店前には、街頭でアンケートを実施しました。すると、多くの女性がラーメン店にひとりで入りにくいと答えました。この結果を受けて、客席と厨房を区切る暖簾を設置しました。これが味集中カウンターの始まりです。その後、仕切り板の導入を経て、現在の形へと進化しました。
オーダー用紙によるカスタマイズ体験
オーダー用紙は、一蘭のもうひとつの独自システムです。お客様は7つの項目から好みを選びます。自分だけの一杯を注文できる仕組みです。食通の微妙な味覚の違いにも応えられる設計です。
選べる項目は次の7つです。それぞれに複数の選択肢が用意されています。
- 味の濃さ
- こってり度
- にんにく
- ねぎ
- チャーシュー
- 秘伝のたれ
- 麺のかたさ
用紙は日本語のほか、英語・韓国語・中国語も用意されています。言葉が通じにくい訪日客でも、紙の上で好みを伝えられます。公式でも多言語対応のオーダー用紙は海外のお客様に好評と説明されており、会話に頼らず注文できる点は海外のお客様にも利用しやすい仕組みといえます。
カスタマイズが生む満足とリピート
自分で味を選ぶ行為は、満足度を高めます。同じ一蘭でも、人によって最適な一杯が変わります。次は別の組み合わせを試したい、という来店動機にもつながります。
メニューをとんこつラーメンに絞ったからこそ、ひとつの商品を深く磨けました。その結果として、細かな好みに応えるカスタマイズが成立しています。商品を絞ることと選択肢を増やすことが、両立している点が特徴です。
オーダー用紙の誕生秘話
オーダー用紙も、お客様の声から生まれました。メニューを一杯に絞った結果、材料ごとに好みが大きく分かれることがわかりました。当初は代表の吉冨氏が、お客様一人ひとりに口頭で好みを聞いていました。
お客様が増えるにつれ、より確実で簡潔な方法が求められました。試行錯誤の末に生まれたのが、現在のオーダー用紙です。どこにもなかったこの仕組みは、元祖のオーダーシステムとして注目を集めました。
替玉システムと店舗体験の工夫
替玉は、スープを残して麺だけをおかわりする博多の文化です。一蘭では、替玉プレートをテーブル奥のボタンに乗せるだけで注文できます。チャルメラの音が鳴り、従業員が受け取りに来ます。
声を出さずに注文できるため、女性客に特に喜ばれています。プレートとチャルメラ音を使う方法は一蘭が生み出したもので、今では象徴のひとつになっています。一杯目と違うかたさの麺を選べば、別の味わいも楽しめます。
体験の一貫性を保つ仕組み
一蘭は、味集中カウンター、オーダー用紙、替玉システムを組み合わせています。来店から食事、おかわりまで、一連の流れがひとつの体験としてつながっています。どの工程にも一蘭らしさが宿っています。
体験が一貫していると、記憶に残りやすくなります。お客様は味だけでなく、食べ方そのものを語りたくなります。これが口コミや話題化につながり、認知の広がりを後押ししていると考えられます。
一蘭のマーケティングを4P分析で整理する
一蘭のマーケティングを、4Pの枠組みで整理します。4Pとは、製品、価格、流通、販促の4つの視点です。マーケティングの基本となるフレームワークです。
4Pの基礎を確認したい方は、マーケティングの基本知識をまとめたカテゴリもあわせてご覧ください。
Product 製品
一蘭の製品は、天然とんこつラーメンに特化しています。商品を絞り込み、味の研究に集中しています。赤い秘伝のたれや臭みのないスープなど、独自の要素で差別化しています。
さらに製品には、味だけでなく体験も含まれます。味集中カウンターやオーダー用紙は、製品価値の一部です。食べ方そのものを商品にしている点が、一蘭の製品戦略の核といえます。
Price 価格
一蘭の価格は、品質や体験の独自性に見合った設定と考えられます。安さで勝負するのではなく、価値で選ばれる立ち位置をとっています。商品と体験を磨き込むことで、価格を下げずに選ばれる関係を築いています。
替玉やトッピングの追加注文もあります。基本の一杯に加えて、客単価を高める設計になっています。価格を下げずに価値を伝える姿勢が、ブランドの維持につながっています。
Place 流通
一蘭は直営での出店を貫いています。フランチャイズを行わないことで、全店の品質を保っています。福岡を起点に、東京や大阪などの都市部にも店舗を構えています。
海外にも出店し、日本国内で一蘭を知ったお客様が海外店舗でもブランドに触れられる接点を広げています。さらに、おみやげ用の通販やカップ麺など、店舗以外の接点も広げています。店舗とそれ以外を組み合わせ、ブランドに触れる機会を増やしています。
Promotion 販促
一蘭は、独自の店舗体験そのものが話題になりやすいブランドです。味集中カウンターやオーダー用紙のように、来店体験の中に語りたくなる要素が組み込まれています。お客様が自ら発信したくなる仕組みが、宣伝に近い役割を果たしていると考えられます。
公式アプリやSNSでの情報発信も行っています。X、Instagram、TikTokなどで店舗や商品の情報を届けています。体験で生まれた話題を、デジタルで広げる流れができています。
一蘭の戦略を中小飲食店に応用する
一蘭の戦略は、大手だからできることばかりではありません。考え方を翻訳すれば、中小の飲食店にも応用できます。規模ではなく、発想に学ぶ視点が大切です。
| 一蘭の施策 | 中小飲食店への応用 |
|---|---|
| 味集中カウンター | ひとり客が入りやすい席づくりや雰囲気の工夫 |
| オーダー用紙の7項目 | トッピングや辛さを選べる簡単なカスタマイズ表 |
| とんこつ一本の集中 | 看板商品を一つに絞り、品質を磨き込む |
| 替玉のチャルメラ音 | 注文や呼び出しに小さな楽しさを加える演出 |
| 体験を語りたくなる設計 | SNSで写真や感想を投稿したくなる仕掛けづくり |
看板商品を絞り込む勇気
一蘭は、とんこつラーメンに絞ることで強くなりました。中小店も同じ発想が使えます。あれもこれもと広げるより、一品を磨くほうが記憶に残ります。
看板商品が明確だと、お客様の頭の中で店と料理が結びつきます。「あの店といえばこれ」という想起が、再来店や紹介を生みます。絞ることは、伝わりやすさへの投資といえます。
ひとり客が入りやすい工夫
一蘭は、入りにくさという課題に向き合いました。中小店も、来店しにくい層を見つけることから始められます。ひとり客、子連れ、高齢者など、対象を具体的に絞る発想です。
大がかりな設備は不要です。席の配置やメニューの見せ方を少し変えるだけでも、入りやすさは変わります。誰の入りにくさを解消するかを決めることが出発点です。
体験を話題に変える
一蘭の集客は、体験が話題を生む流れに支えられています。中小店でも、思わず人に話したくなる小さな仕掛けはつくれます。注文方法や提供の演出に、ひと工夫を加える発想です。
話題はSNSや口コミで広がります。広告だけに頼らず、認知を広げるきっかけにもなります。お客様が発信したくなる体験を設計することが、現代の集客では重要になっています。
自店の看板商品づくりや集客の仕組みづくりについて相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
集客のカチプロに相談するまとめ
一蘭のマーケティングは、独自の顧客体験を軸に組み立てられています。味集中カウンターとオーダー用紙という2つの仕組みが、その中心にあります。周囲を気にせず食べられる環境づくりや、多言語対応の注文方法によって、女性客や海外のお客様にも利用しやすい体験を設計している点が特徴です。
商品をとんこつラーメンに絞り込み、味と体験を磨き込む。派手な広告ではなく、語りたくなる体験で話題を広げる。この発想は、規模を問わず多くの飲食店に応用できます。
大切なのは、自店ならではの強みを一つ決め、それを磨き込むことです。一蘭の歩みは、絞ることの強さと、体験設計の可能性を教えてくれます。集客の仕組みづくりに迷ったときは、ぜひ参考にしてみてください。
※本記事の一蘭に関する会社概要、店舗数、五つの元祖、味集中カウンター、オーダー用紙、替玉注文システムに関する情報は、株式会社一蘭の公式サイトおよび公式コラムを参照しています。マーケティング分析部分は、公式情報をもとにした筆者の考察です。
