クリニックの口コミのやらせは違法?ステマ処分・200万円の賠償事例から考える経営リスク

クリニックの口コミで高評価を増やすために、投稿者へ報酬を支払う。競合する医院の評判を落とすために、患者を装って虚偽の口コミを書き込む。こうしたやらせは、行政処分や損害賠償、刑事責任につながる行為です。
実際に、高評価の口コミを条件としてインフルエンザワクチンの接種費用を割り引いた医療法人が、景品表示法に基づく措置命令を受けています。また、眼科医院の名誉を傷つける口コミを投稿した人物に、200万円の損害賠償と投稿の削除を命じた判決もあります。
クリニック経営で特に重く受け止めたいのは、口コミを操作した事実が知られ、医院全体への信用を失うリスクです。
この記事では、口コミのやらせを「自院の高評価を作る行為」と「他院の低評価を作る行為」に分け、該当する法律と実例、通常の口コミ依頼との違いを解説します。
クリニックの口コミのやらせとは?
クリニックの口コミのやらせとは、患者自身の体験や評価を装い、意図的に医院の評判を操作する行為です。主に、次の2種類があります。
| 種類 | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 自院の高評価を作る | 自院の評判をよく見せる | 星5の投稿を条件に割引する、患者を装った高評価を業者に書かせる |
| 他院の低評価を作る | 競合医院の評判を落とす | 受診していない医院について、架空の診療トラブルを書き込む |
報酬を支払って希望する評価を増やすサクラは、やらせの典型です。院長やスタッフが患者になりすまして投稿する自作自演も、評判を操作する行為に含まれます。
①自院の高評価を作る
自院の高評価を作るやらせには、次のような例があります。
- 星4・星5の口コミ投稿を条件に、予防接種費用を割り引く。
- 業者に報酬を支払い、受診経験のない人に好意的な口コミを書かせる。
- 医院の指示で、スタッフが一般の患者を装って高評価を投稿する。
例えば、「星5を付けてくれたら500円引きにします」と案内すると、割引を受けるために選ばれた星5が、患者の満足度を示す評価として表示されます。
閲覧者には、その評価がどのように作られたのかが分かりません。医院側が誘導した評価を、患者の自然な評価として受け取らせることが問題です。
②他院の低評価を作る
他院の低評価を作るやらせとは、競合医院を攻撃する目的で、架空の体験や虚偽の情報を口コミとして投稿する行為です。
例えば、受診していない医院について「同意していない手術をされた」と書き込むケースです。報酬を支払って第三者に投稿させる方法も、自ら患者になりすます方法もあります。
ここで扱うのは、他院の評判を落とすために作られた口コミです。実際の患者が「待ち時間が長く感じた」「説明が分かりにくかった」と、自分の体験に基づく感想を投稿することとは区別します。
クリニックの口コミのやらせは何がまずいのか?
自院が作った高評価を第三者の口コミに見せかける行為には、景品表示法のステルスマーケティング規制が関わります。他院について虚偽の情報を流し、名誉や信用を傷つける行為には、刑法や民法が関わります。
同じ口コミ操作でも、問われる責任は異なります。それぞれ、法律の条文と実例を確認しましょう。
自院が関与した高評価を隠して表示すると、ステマ規制に違反する
ステルスマーケティングとは、事業者による広告・宣伝であることを、一般の消費者が判別しにくい表示です。
クリニックの口コミでは、次の2点が判断の軸になります。
- 医院側が、星の数や好意的な投稿内容の決定に関与している。
- その投稿が医院側の関与した表示であることを、閲覧者が判別しにくい。
根拠は、景品表示法第5条第3号と、それに基づくステルスマーケティング告示です。
景品表示法第5条(抜粋)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
この規定に基づく告示では、次の表示が指定されています。
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
実際の患者が投稿した口コミでも、医院側が高評価を条件にして作らせれば、この規制が問題になります。その具体例が、インフルエンザワクチンの割引をめぐる処分です。
ステマの仕組みや他業種の事例は、ステマ(ステルスマーケティング)の解説も参考にしてください。
事例:高評価の投稿を条件に、インフルエンザワクチンの接種費用を割引
消費者庁は2024年6月6日、医療法人社団祐真会に対し、景品表示法に基づく措置命令を行い、翌7日に公表しました。
対象となったのは、同法人が運営する「マチノマ大森内科クリニック」のGoogleマップ上の口コミです。
同クリニックでは、インフルエンザワクチン接種のために来院した人に、星5または星4の投稿を条件として接種費用を割り引くことを伝え、これに応じた来院者の評価が表示されていました。
消費者庁は、医院側が表示内容の決定に関与している一方、一般消費者には事業者の表示であることが明瞭になっていないとして、ステマ規制への違反を認定しました。
措置命令では、違反表示の取りやめ、一般消費者への周知徹底、再発防止策などが求められています。法人名とクリニック名も公表されました。
この事例で押さえたいのは、患者への割引が、高評価を作るための対価として使われていた点です。口コミ対策として始めた施策が、医院名を伴う行政処分の公表につながっています。
他院への虚偽の口コミは、名誉毀損や業務妨害の問題になる
他院について架空の診療トラブルを書き込み、社会的評価を傷つける行為では、名誉毀損罪が問題になります。
刑法第230条第1項(名誉毀損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
例えば、他院の評判を落とすために「患者に無断で手術をしている」と架空の出来事を公開すれば、名誉毀損罪に問われる可能性があります。具体的な出来事を示して、その医院の社会的評価を傷つけるためです。
虚偽の情報で信用を傷つけたり、業務を妨害したりする行為には、刑法第233条も関わります。
刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
例えば、「この医院は使用済みの注射針を使い回している」という虚偽の口コミを流して受診を妨げる行為は、信用毀損や偽計業務妨害の問題になります。
他院を攻撃して自院を有利に見せようとする行為には、刑事罰を受ける危険があります。
匿名でも、発信者情報の開示や損害賠償請求の対象になる
匿名の口コミについては、被害を受けた医院が、投稿者を特定するために発信者情報の開示を請求する仕組みがあります。
情報流通プラットフォーム対処法第5条では、権利侵害が明らかで、損害賠償請求などのために開示を受ける正当な理由がある場合に、発信者情報の開示を請求できます。
例えば、架空の医療被害を投稿されて名誉を傷つけられた医院は、投稿内容や虚偽であることを示す資料をそろえ、投稿者の特定と損害賠償請求を進めることになります。
損害賠償の基本的な根拠は、民法第709条です。
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
また、被害医院が警察へ相談し、刑事告訴によって処罰を求めることもあります。名誉毀損罪は、起訴に告訴が必要な犯罪です。民事上の賠償請求と、刑事責任を追及する手続きは、それぞれ別に進められます。
匿名で投稿しても、投稿者としての責任から逃れられる仕組みにはなっていません。
事例:眼科医院の口コミ投稿者に200万円の損害賠償命令
兵庫県尼崎市の遠谷眼科を運営する医療法人社団秀明会は、Googleマップに医院の名誉を毀損する口コミを投稿した女性に対し、投稿の削除と損害賠償を求めて訴訟を起こしました。
同医院の公表によると、2024年5月31日、大阪地方裁判所は投稿者に、投稿記事の削除と200万円の損害賠償の支払いを命じました。
医院側は、訴訟前にも投稿の削除を求めたものの回答がなく、訴訟に至ったと説明しています。
この200万円は、被害を受けた医院側に支払う民事上の損害賠償です。刑事罰として国に納める罰金とは異なります。
また、この事例は、口コミ投稿者の責任を示すものです。競合医院が投稿を依頼したという事実は、確認した公開資料には示されていません。
クリニックの評判を傷つける口コミには、削除に加えて、高額の賠償責任が伴うことを示す事例です。
経営上、最も重く受け止めたいのは、発覚による信用の喪失
やらせが経営に与える影響は、処分や賠償金だけではありません。医院の誠実さが疑われることが、長期的な問題になります。
自院の口コミ操作が知られれば、患者は「ほかの高評価も作られたものではないか」と疑います。他院への虚偽の投稿に関与した事実が明らかになれば、医療機関としての姿勢まで問われます。
外部に知られる経路もあります。
| 行為 | 公表・報道につながる経路 |
|---|---|
| 自院のステマ | 消費者庁による措置命令の公表、違反内容の周知、報道 |
| 他院への虚偽の投稿 | 被害医院による訴訟結果の公表、裁判や捜査に関する報道 |
ワクチン割引の事例では行政が法人名と医院名を公表し、遠谷眼科の事例では被害医院が判決内容を公開しています。
発信者情報の開示は、投稿者を特定する手続きです。世間への公表は、行政の発表や当事者の発信、報道などを通じて起こります。
口コミを操作した事実が知られると、正当に積み重ねてきた評価まで疑われる。それが、クリニック経営で重く受け止めたいリスクです。
やらせ・サクラと、口コミを依頼することの違い
やらせやサクラは、医院側の希望に沿った評価を作る行為です。通常の口コミ依頼は、患者自身の経験に基づく率直な感想を、任意で投稿してもらうことです。
| 判断する点 | やらせ・サクラ | 適切な口コミ依頼 |
|---|---|---|
| 星の数 | 星5など、希望する評価へ誘導する | 患者が自由に決める |
| 投稿内容 | 褒める内容や架空の体験を指定する | 患者が実体験に基づいて書く |
| 投稿するかどうか | 特典や圧力によって投稿させる | 患者の意思に委ねる |
| 投稿への対価 | 報酬・割引などを交換条件にする | 対価を提供しない |
報酬は、やらせの典型的な手段です。無報酬であっても、患者になりすまして架空の体験を書く行為は、やらせに当たります。
依頼するのは、希望する評価ではなく、患者自身の率直な感想
口コミを案内するときは、次のように伝えます。
よろしければ、受診して感じたことを率直なご感想としてお寄せください。投稿は任意です。
星の数や文章の内容は、患者に委ねます。「星5でお願いします」「説明が丁寧だったと書いてください」といった指定は行いません。
このように、医院側が内容に介入せず、通常の患者が自分の意思で感想を投稿する形の依頼は、ステマ規制に抵触しません。Googleも、対価を提供せず、評価や内容に影響を与えない実体験に基づく投稿の依頼を認めています。
院内アンケートで満足と答えた人だけをGoogleの口コミへ誘導する方法は、肯定的な口コミを選択的に募る行為として、Googleの禁止対象になります。また、その場での投稿を要求・強要することも避けてください。
内容が自由でも、投稿への報酬や割引はGoogleで禁止されている
Googleマップでは、口コミ投稿と引き換えに、金銭、割引、無料の商品やサービスなどを提供する行為が禁止されています。
例えば、「星の数も内容も自由ですが、投稿してくれたら500円引きにします」という方法も禁止対象です。患者が自由に書けても、投稿と割引を交換しているためです。
法律と投稿先のルールは、判断基準が異なります。消費者庁のQ&Aでは、一般消費者に内容を指定せず、投稿促進のための割引程度の対価を提供する例を、通常はステマ規制に違反しないと整理しています。Googleでは、このような口コミへの割引も禁止しています。
Googleの口コミ依頼は、「内容を指定しない」「対価を付けない」「投稿を強制しない」の3点を院内の共通ルールにしましょう。
具体的な案内や運用を整える際は、クリニックの口コミを増やす方法も参考にしてください。
まとめ
クリニックの口コミのやらせには、自院の高評価を作る行為と、他院の低評価を作る行為があります。
自院が関与した高評価を、患者の自主的な口コミに見せかける行為は、景品表示法のステマ規制に違反します。他院について虚偽の口コミを書き込み、名誉や信用を傷つける行為は、損害賠償や刑事責任につながります。
経営者が守るべきなのは、口コミの点数以上に、クリニックそのものへの信用です。患者が自分の意思で率直な感想を残せる環境を整え、寄せられた意見を医院の改善に生かしましょう。
開業直後で口コミが少ない場合は、クリニック開業時の集客方法を参考に、認知から来院までの施策を組み立ててください。
集客を外部に委託する際も、口コミをどのように集めるのかまで確認することが大切です。依頼先を検討する際は、クリニックの集客支援業者と選び方で比較のポイントを確認できます。
