シャトレーゼのマーケティング戦略を徹底分析|製造小売モデル・4P・低価格の仕組み

シャトレーゼのマーケティング戦略を徹底分析。製造小売モデルと4P、低価格の仕組み
シャトレーゼは、和洋菓子を中心に国内外で1,000店舗を超える規模を展開する製造小売の菓子チェーンです。連結売上高は2025年3月期で1,613億円に達し、近年の菓子業界では突出した成長を続けてきました。本記事では、シャトレーゼのマーケティングの特徴を、製造小売モデル・網羅的な品ぞろえ・4P分析・立地戦略・Webマーケティングの5つの視点から分析します。なぜ手ごろな価格と高い品質を両立できるのか、その仕組みを経営の観点から読み解きます。あわせて、急成長の裏側で表面化した労務やガバナンスの課題にも触れ、中小企業や店舗経営者が自社の集客に応用できる学びを整理します。
シャトレーゼとは。製造小売で成長した菓子チェーン
シャトレーゼは、1954年に山梨県で創業した和菓子店をルーツとする菓子メーカーです。アイスクリーム、ケーキ、和菓子、焼き菓子まで幅広い商品を、自社工場で製造し直営とフランチャイズの店舗で販売します。
同社の連結売上高は、2025年3月期で1,613億円となりました。2020年代に入って1,000億円規模へと拡大した後も、成長は止まっていません。コロナ禍でも勢いを保ち、菓子業界のなかで際立った存在になりました。
店舗数の増え方も急激です。国内店舗は2015年度末の461店舗から大きく伸び、2024年1月には国内外で1,000店舗の出店を達成しました。その後も拡大を続けています。事業の主軸は菓子ですが、グループではワイナリーやホテル、ゴルフ場も運営しています。多角化が、菓子市場の変動に左右されにくい経営の安定性を支えています。
シャトレーゼの基本データ
連結売上高は1,613億円、2025年3月期の数字です。国内外の店舗数は1,000店舗を超えます。創業は1954年で、本社は山梨県にあります。菓子事業を主力としながら、ワイナリーやホテル、ゴルフ場運営も手がけます。
シャトレーゼのマーケティングの特徴
シャトレーゼのマーケティングの強さは、商品づくりの仕組みそのものにあります。一般的な菓子店との違いを、3つの視点から整理します。
店舗ではなく工場で作る製造小売モデル
通常の街の洋菓子店は、それぞれの店舗で職人が一から商品を作ります。一方シャトレーゼは、菓子の大部分を自社工場でまとめて製造します。問屋を介さず、原材料の仕入れから製造、店舗への配送までを自社でコントロールする仕組みは、1985年に始まったファームファクトリー構想を土台にしています。この流通革命が、現在のシャトレーゼの主軸です。
工場での集中生産には、大きな利点があります。まず、大量生産による原価の低減です。次に、品質の均一化です。どの店舗でも同じ味と見た目を保てます。店舗側は調理設備や熟練職人を抱える必要が減り、出店のハードルが下がります。この仕組みが、手ごろな価格と全国展開を同時に実現しました。
店舗での手作りで特別感を演出
すべてを工場任せにしているわけではありません。シュークリームなど一部の商品は、店舗で仕上げる工程を残しています。出来たての商品を提供することで、特別感を演出する狙いです。
この使い分けが巧みです。効率を重視する商品は工場で大量生産し、鮮度や体験価値が重要な商品は店舗でアレンジします。コストと付加価値のバランスを、商品ごとに最適化しているわけです。画一的な工場製品という印象を避け、来店する理由を作り出しています。
お菓子のほぼすべてが一店舗でそろう網羅性
シャトレーゼに行けば、お菓子に分類されるものはほぼ網羅的に手に入ります。生ケーキ、焼き菓子、和菓子、アイスクリーム、デコレーションケーキ、贈答用ギフトまで、幅広いカテゴリーが一つの店舗に集まっています。
この網羅性は、来店頻度と客単価の両方を押し上げます。日常のおやつから記念日のケーキ、手土産まで、あらゆる菓子ニーズを一店舗で満たせるからです。専門店なら複数の店を回る必要がある買い物が、シャトレーゼなら一度で完結します。買い回りの手間を省くこの利便性が、ファミリー層の支持を集めています。
シャトレーゼの4P分析
マーケティングの4P分析は、製品、価格、流通、販促の4つの視点から戦略を整理する枠組みです。シャトレーゼの強さは、この4つが互いに噛み合っている点にあります。それぞれを詳しく見ていきます。
Product 製品戦略
製品面の最大の特徴は、圧倒的な品ぞろえの広さです。和洋菓子からアイス、ギフトまでをカバーし、季節限定商品も次々に投入します。一つの店舗で多様なニーズに応える幅が、競合の専門店との明確な違いです。
品質を支えるのが、原材料への取り組みです。シャトレーゼは20年以上前から、農場と菓子工場を一体運営する仕組みを構築してきました。新鮮で安心な素材を使った菓子づくりを、自社で完結させる体制です。契約農家由来の素材を活かした商品づくりが、価格に対する品質の高さを生み出しています。
製品ラインの厚みは、来店動機を多様化させます。ある日はアイスを買い、別の日はケーキを予約し、お盆には手土産を選ぶ。同じ顧客が異なる目的で何度も訪れる構造が、製品戦略によって作られています。
季節限定商品の投入も、製品戦略の重要な柱です。春は桜、夏はかき氷やゼリー、秋は栗やさつまいも、冬はクリスマスケーキと、季節ごとに目玉商品が入れ替わります。限定品は来店の新しい理由を生み出し、飽きさせない店づくりにつながります。定番商品の安定した売上に、限定品による話題性を重ねる構成です。この二層構造が、安定と新鮮さを両立させています。
Price 価格戦略
シャトレーゼの代名詞は、手ごろな価格です。シュークリームやカットケーキを、専門店より大幅に安い価格帯で提供します。この低価格を支えているのが、前述の製造小売モデルです。
価格の安さは、単なる安売りではありません。工場での大量生産による原価低減、問屋を介さない直送による中間マージンの削減、ファームファクトリーによる素材調達と製造の一体化。これらの仕組みが積み重なって、リーズナブルな価格を打ち出しやすくしています。品質へのこだわりと手ごろな価格を両立させるための、構造的なコストコントロールです。
同社が掲げる考え方は、手の届くプレミアムです。高品質な商品を、無理のない価格で多くの人に届ける。この価格戦略が、ファミリー層や日常使いの幅広い顧客を取り込んできました。なお、食品価格が上昇するなかで、シャトレーゼも2023年に約150アイテムの価格改定を行うなど、一部商品では値上げを実施しています。それでも、低価格帯の商品を多く残し、日常的に買いやすい価格設計を維持している点が、ブランドの支持につながっています。
低価格は、来店頻度を高める効果も持ちます。一個あたりの単価が手ごろなため、特別な日でなくても気軽に買えます。日常のおやつとして繰り返し購入される土壌が、価格戦略によって整えられています。高価格帯の専門店が記念日需要に偏りがちなのに対し、シャトレーゼは日常需要を取り込める点が強みです。来店のハードルを下げることが、結果として年間の購入回数を押し上げ、顧客一人あたりの価値を高めています。
Place 流通と立地戦略
4Pのなかでも、シャトレーゼの立地戦略は特に重要です。取材記事での社長発言によれば、国内店舗の約9割が郊外のロードサイドに出店しているとされます。大きな道路に面した、駐車場の広い大型店が基本のスタイルです。
この立地選びには明確な意図があります。ターゲットは、自動車で買い物に来る近隣住宅地のファミリー層です。広い駐車場があれば、まとめ買いやケーキの持ち帰りがしやすくなります。郊外の賃料は都心より安いため、低価格戦略との相性も良好です。郊外で鍛えたこの店舗モデルが、シャトレーゼの成長を支えてきました。
近年は、立地の多様化も進めています。若者の車離れや高齢ドライバーの事故リスクを踏まえ、ロードサイド一辺倒の計画を見直しました。集客力のあるテナントを求めるショッピングモールへの出店を強化し、賃料面で有利な条件を引き出しています。首都圏では路面店や商業施設に加え、JR系の加盟をきっかけに駅ナカへも進出しました。立地ごとに最適な店舗形態を使い分ける柔軟さが、出店余地を広げています。
フランチャイズ制度も、流通戦略の核です。国内店舗の大半はフランチャイズで、本部の主な収入は工場からの卸売です。ロイヤリティはゼロに設定されています。本部は商品を卸すことで利益を得るため、加盟店の売上が伸びるほど本部も潤う構造です。本部と加盟店の利害が一致しやすく、急速な店舗拡大を後押ししました。
出店にあたっては、本部が立地調査と事業計画づくりを支援します。候補地の交通量や商圏を調査し、立地特性に合わせた店舗レイアウトを提案します。加盟店が物件を探すこともできますが、本部からの優良物件の紹介も受けられます。立地という成功の前提条件を、本部のノウハウで補強する仕組みです。出店地ごとに商圏内での独占的な販売権が与えられる点も、加盟店が腰を据えて経営に取り組める環境を作っています。立地戦略を本部と加盟店が二人三脚で固めることが、各店舗の採算性を高めています。
Promotion 販促戦略
販促では、デジタルを軸にした顧客との接点づくりが進んでいます。詳細は次の章で扱いますが、公式アプリと会員制度を中心に、リピート購入を促す仕組みを整えています。
テレビなどのメディア露出も、認知拡大に寄与してきました。コストパフォーマンスの高い菓子チェーンとして話題になり、新規来店を生み出しています。商品力そのものが口コミを生む点も、シャトレーゼの販促の特徴です。広告に過度に頼らず、商品と価格の魅力で顧客を引き寄せる構造ができています。
| 4Pの視点 | シャトレーゼの戦略 |
|---|---|
| Product 製品 | 和洋菓子からアイス、ギフトまで網羅。ファームファクトリーで素材を内製化 |
| Price 価格 | 製造小売モデルで低価格を実現。手の届くプレミアムを掲げる |
| Place 流通・立地 | 郊外ロードサイドの大型店が中心。ロイヤリティゼロのFCで拡大 |
| Promotion 販促 | 公式アプリと会員制度でリピート促進。メディア露出と口コミも活用 |
シャトレーゼのWebマーケティングの中身
シャトレーゼのWeb戦略は、公式アプリと会員制度を中心に組み立てられています。具体的に何をやっているのかを分解します。
公式アプリと会員証のデジタル化
シャトレーゼは、公式アプリを顧客接点の中心に据えています。アプリは会員証として機能し、買い物のたびにポイントが貯まります。財布からカードを探す手間がなく、スマホの画面を提示するだけで買い物が完結します。
アプリには、ポイントサービスのCashipoが組み込まれています。会員はアプリから入会でき、マイページでポイントの残高や有効期限、購入履歴を確認できます。会員情報の変更もアプリ上で行えます。紙のカードからデジタルへ移行することで、顧客データを蓄積しやすくする狙いです。
プッシュ通知とアプリ限定クーポン
アプリの強みは、顧客へ直接情報を届けられる点です。季節限定商品の最新情報を、プッシュ通知で見逃しなく伝えます。アプリ限定のクーポンやキャンペーンも配信し、来店のきっかけを作ります。
プッシュ通知は、来店頻度を高める手段の一つです。メールマガジンと違い、スマホの画面に直接表示されるため、新商品やキャンペーンの情報を届けやすくなります。アプリ限定クーポンやWeb予約、店舗受け取りと組み合わせることで、情報接触から購入までの導線を短くする設計になっています。
3サイト統合によるメディアコマース化
シャトレーゼは、公式サイトのリニューアルで複数サイトを統合しました。それまで分かれていたサイトを一つにまとめ、回遊性と利便性を高めています。情報発信と販売を融合させた、メディアコマースへの転換です。なお、メディアコマースという表現は、公式サイトのリニューアルを支援したecbeing側の発表で使われている整理です。シャトレーゼ公式としても、季節商品やキャンペーン、取り組みの情報発信と、通販サイトとしての利便性向上を図ったことを公表しています。
統合により、人気のギフトや季節限定ケーキの予約がしやすくなりました。アプリからも、通販商品の購入やWeb予約による店舗受取が可能です。オンラインで注文し、店舗で受け取る流れを整えることで、店頭の混雑緩和と販売機会の拡大を両立しています。情報を見て、選んで、買うまでを一つの導線でつなぐ設計です。
Webマーケティングの課題
一方で、アプリには改善の余地も残っています。一部のユーザーレビューでは、会員登録の手順が分かりにくい、会員証の表示時にログインを求められて手間取るといった声が見られます。レジ前でログインに手間取る体験は、せっかくのデジタル化の利点を損ないかねません。
この点は、店舗経営者にとっての教訓でもあります。デジタル施策は導入するだけでなく、顧客の使い勝手まで磨いて初めて効果を発揮します。会員制度やアプリを集客に活かすなら、登録から利用までの体験設計を丁寧に整えることが欠かせません。
急成長の裏側にある課題
シャトレーゼの強さを学ぶうえで、急成長の副作用にも目を向ける必要があります。順調に見える成長の裏で、管理体制が拡大に追いつかない場面が表面化しました。
報道や公的機関の発表によれば、同社は労務やガバナンスの面でいくつかの指摘を受けています。具体的には、次の3つが確認できます。
1つ目は、公正取引委員会による下請法違反の勧告です。2025年3月、下請事業者に製造委託した包装資材や原料について、受領拒否や無償での保管に関する違反事実が認定されました。
2つ目は、特定技能で働く外国人材の待機問題です。新工場の稼働遅れに伴って待機が生じ、休業手当の未払いが問題となりました。出入国在留管理庁から改善命令を受けたことが報じられています。
3つ目は、長時間労働の疑いによる書類送検報道です。繁忙期に従業員へ違法な時間外労働をさせた疑いで、法人としてのシャトレーゼと部長職が書類送検されたと報じられました。
これらは、急成長を遂げた企業が直面しやすい課題です。事業の拡大スピードに、人事や管理の仕組みが追いつかないと、ひずみが現場に集中します。マーケティングの成功と、組織運営の健全さは別々に整える必要があります。店舗を増やし売上を伸ばす局面ほど、内部の体制づくりを並行して進める視点が求められます。
中小企業や店舗経営者がシャトレーゼから学べること
シャトレーゼの強さは、単なる安売りではありません。自社工場での製造、問屋を介さない流通、契約農家や農場からの素材調達、郊外ロードサイドを中心とした出店戦略、フランチャイズによる店舗拡大が組み合わさった結果として、価格と品質のバランスが成立しています。
そのため、中小企業がそのまま真似すべきなのは安く売ることではありません。学ぶべきは、商品、価格、立地、販促をバラバラに考えず、一つの導線として設計する姿勢です。日常使いの商品で来店頻度を作り、記念日や贈答品で客単価を上げ、会員制度やアプリで再来店を促す。このように、売上が積み上がる仕組みを作っている点に本質があります。
逆に、真似しにくい部分も明確に分けて考える必要があります。自社工場、全国規模の物流、大量仕入れ、フランチャイズ網は、相応の資本と時間がなければ構築できません。ここを混同して安売りだけを真似ると、利益を削るだけの消耗戦に陥ります。学ぶべきは安さそのものではなく、価格に対する納得感をどう作るかという発想です。
一方で、急成長には管理体制の課題も伴います。労務、取引先対応、外国人材の受け入れなど、事業規模が拡大するほど内部管理の重要性は高まります。売れる仕組みを作ることと、健全に運営できる組織を作ることは、同時に進めなければなりません。シャトレーゼの事例は、成長戦略の成功例であると同時に、拡大期のガバナンスを考える教材でもあります。
まとめ。安売りではなく仕組みで価格競争力を作る
シャトレーゼのマーケティングは、商品の魅力だけで成り立っているのではありません。工場での集中生産、問屋を介さない直送、ファームファクトリーによる素材内製。これらの仕組みが積み重なり、低価格と高品質の両立を実現しています。
4Pの視点で見ると、製品の網羅性、低価格、郊外大型店という立地、アプリ中心の販促が、互いに噛み合っているのが分かります。一つひとつの施策が単独で効いているのではなく、全体が連動して強さを生んでいます。これこそが、シャトレーゼの本質的な競争力です。
中小企業や店舗経営者にとっての学びは明確です。売れる状態は、その場限りの施策ではなく、仕組みによって作られます。自社の商品、価格、立地、集客の流れがどう連動しているかを見直すことが、持続的な成長の出発点になります。同時に、成長の裏で内部体制を整える視点も忘れてはなりません。仕組みで強さを作るという発想を、自社の集客にどう応用できるかを考えてみてください。
