餃子の王将のマーケティング戦略|値上げ耐性と顧客囲い込みに学ぶ飲食店集客

餃子の王将は、複数回の値上げを実施しながらも売上を伸ばし、2025年3月期には過去最高益を更新した外食チェーンです。その原動力が、会員制度「ぎょうざ倶楽部」を中心とした顧客の囲い込みにあります。本記事では、運営会社である王将フードサービスの店舗集客戦略を、STP分析・価格戦略・顧客囲い込み・4P分析の4つの視点から読み解きます。値上げが避けられない今、飲食店オーナーが自店に応用できるファンづくりとリピート設計の考え方を、実務目線で整理しました。
餃子の王将とはどんなブランドか
餃子の王将は、株式会社王将フードサービスが運営する中華料理チェーンです。1967年に京都市の四条大宮で1号店が開業しました。京阪神地区を中心に全国へ広がり、店内飲食を主力とする外食ブランドとして知られています。
業績は好調が続いています。2025年3月期の売上高は1110億3300万円、営業利益は109億400万円となり、過去最高を更新しました。2026年3月期も売上高は1168億3800万円と5年連続で増収となった一方、人件費や原材料費などのコスト上昇により営業利益は104億1000万円と減益になりました。それでも営業利益は3年連続で100億円を突破しており、営業利益率も8.9%を維持しています。コスト上昇が続く外食業界において、一定の収益性を保っている点は注目できます。
ここで混同しやすい点を整理します。「餃子の王将」と「大阪王将」は別会社です。大阪王将はイートアンドホールディングスが運営し、市販の冷凍餃子市場で上位を占める物販に強いブランドです。一方の餃子の王将は、店内飲食を軸とする店舗集客型のビジネスモデルです。本記事では、後者の店舗集客戦略に焦点を当てます。
餃子の王将のビジネスの特徴
- 1967年京都発祥、店内飲食を主力とする外食チェーン
- 2026年3月期の売上高は1168億3800万円で5年連続の増収
- 2025年3月期には営業利益率9.8%を記録し、2026年3月期も8.9%を維持
店舗展開の方法にも特徴があります。餃子の王将は直営店とフランチャイズ店を組み合わせて全国に広げてきました。京阪神を地盤としながら、首都圏をはじめ各地へ着実に出店しています。急拡大よりも、各店の収益性を保ちながら広げる堅実な姿勢が、安定した業績につながっています。
外食業界全体が、原材料費や人件費の高騰、人手不足といった課題に直面しています。多くのチェーンがコスト上昇に苦しむなか、餃子の王将が5年連続の増収を続け、営業利益も高水準を保っている背景には、後述する顧客の囲い込みと価格戦略があります。単に立地や知名度に頼るのではなく、リピート客を軸にした仕組みで安定を生み出している点が、学ぶべきポイントです。
STP分析で見る餃子の王将のポジショニング
STP分析とは、市場を細分化し、狙う顧客を定め、自社の立ち位置を明確にするフレームワークです。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字を取っています。餃子の王将の店舗集客は、この視点で見ると一貫しています。
セグメンテーション|市場の細分化
外食市場は、価格帯や利用シーンで細かく分かれます。高価格帯の専門店から、低価格のファストフードまで幅広く存在します。餃子の王将が位置するのは、手頃な価格で本格的な中華を日常的に楽しめる中価格帯です。
利用シーンも特徴的です。一人での食事、家族での外食、仕事帰りの一杯など、日常使いの幅広い場面をカバーしています。特別な日のためではなく、普段づかいの中華という市場を押さえています。
ターゲティング|狙う顧客の決定
餃子の王将は幅広い年齢層に利用されています。会員制度では紙のカードも残しており、スマートフォン操作に不慣れな層にも配慮した設計になっています。常連層には中高年層も多いと考えられ、アプリだけに一本化しない姿勢が、幅広い客層の取り込みにつながっています。
幅広い年齢層を受け入れつつ、特に頻繁に通う常連客を大切にする姿勢が明確です。新規客の獲得だけに偏らず、既存客のリピートを軸に据えている点が、ターゲティングの特徴です。
ポジショニング|立ち位置の明確化
餃子の王将のポジショニングは、「日常的に通える本格中華の店」です。価格は手頃でありながら、店舗で職人が調理する出来たての味を提供します。チェーン店でありながら、町中華のような親しみやすさを保っています。
この立ち位置を支えるのが、品質と接客への投資です。値上げをしても顧客が離れないのは、価格に見合う体験を提供し続けているからです。安さだけで勝負せず、満足度で選ばれる店を目指している点が、独自のポジションを築いています。
競合との関係でも、このポジションは効いています。低価格を売りにするファストフードとは異なり、出来たての本格中華という価値で差別化しています。一方で、高級中華料理店のような敷居の高さもありません。手頃さと本格さの中間という立ち位置が、日常使いの需要をしっかり捉えています。どちらにも寄りすぎない絶妙なバランスが、幅広い客層に支持される理由です。
| STP要素 | 餃子の王将の戦略 |
|---|---|
| セグメンテーション | 手頃な価格の日常使い中価格帯 |
| ターゲティング | 中高年層を含む幅広い常連層 |
| ポジショニング | 日常的に通える本格中華の店 |
値上げを成功させた価格戦略
餃子の王将の最も注目すべき成果が、値上げと客数維持の両立です。多くの飲食店が値上げによる客離れに悩むなか、なぜ餃子の王将は成功したのでしょうか。
値上げしても客が離れない理由
餃子の王将は近年、原材料費や人件費の上昇を背景に、複数回の価格改定を実施してきました。それでも客数を大きく減らすことなく、2025年3月期には過去最高益を達成しています。2026年3月期も直営既存店売上は前年比104.4%となっており、価格改定後も需要を維持していることがうかがえます。営業利益こそコスト上昇で減益となりましたが、売上高は5年連続で増収を続けており、値上げが客離れに直結していないことを示しています。
この値上げ耐性を生んでいるのが、価格以外の価値です。品質の向上、丁寧な接客、そして人材育成への投資です。値上げの一方で店舗体験の質を高めることで、顧客は価格上昇を納得できる対価として受け止めています。値上げと同時に価値を上げる。この順序が、客離れを防ぐ鍵になっています。
値上げ単体では客離れを招きます。値上げに先立って、あるいは同時に、顧客が感じる価値を高めることが、成功の前提条件です。価格と価値のバランスを保つ発想が重要になります。
人材育成への投資も見逃せません。餃子の王将は人材力を強みとして掲げ、待遇面でも業界で高い水準を目指しています。従業員の質が高まれば、調理の安定感や接客の質が上がります。それが顧客満足につながり、値上げを受け入れてもらえる土台になります。価格・品質・人材は、それぞれ独立した課題ではなく、つながった一つの戦略として機能しているのです。
値上げのタイミングと幅にも工夫があります。一度に大きく上げるのではなく、複数回に分けて段階的に進めています。急激な変化は顧客に衝撃を与えますが、小刻みな調整であれば受け止めやすくなります。複数回に分けた価格改定は、こうした段階的なアプローチの表れと考えられます。
ただし、餃子の王将の値上げ耐性は、会員制度だけで生まれているわけではありません。王将フードサービスは、調理技能の向上や接客トレーナーの育成、既存店の改装、テイクアウトのネット予約の利便性向上などにも投資しています。価格を上げる一方で、料理・接客・店舗体験の質を高めていることが、顧客の納得感を支える重要な要素です。
会員割引という値上げの緩衝材
価格戦略でもう一つ巧みなのが、会員割引の存在です。後述する「ぎょうざ倶楽部」では、会員ランクに応じて5%から10%の割引が受けられます。表面的な価格は上げつつ、常連客には割引で還元する構造です。
この仕組みは、値上げの痛みを和らげる緩衝材として機能します。頻繁に通う顧客ほど割引の恩恵を受けられるため、値上げへの心理的な抵抗が下がります。価格を上げながら、ロイヤル顧客を逃さない設計になっています。
ぎょうざ倶楽部に見る顧客囲い込み
餃子の王将の集客力を支える中核が、会員制度「ぎょうざ倶楽部」です。これは値上げを重ねてもリピーターを生み出す源泉となっています。仕組みを分解して見ていきます。
スタンプとランク制度の仕組み
ぎょうざ倶楽部は、会計金額に応じてスタンプを貯める仕組みです。各種割引処理後の税込500円ごとにスタンプが1個付与されます。貯まったスタンプの数に応じて、会員ランクが上がっていきます。
会員ランクは段階制です。2025年版のキャンペーンでは、スタンプを25個集めるとシルバー会員になり、いつでも5%引きで飲食できます。シルバー取得後にさらに25個集めるとゴールド会員で7%引き、ゴールド取得後にさらに50個集めると最上位のプラチナ会員で10%引きとなります。上のランクを目指すほど来店が促される、明確なインセンティブ設計です。
| 会員ランク | 割引率 |
|---|---|
| シルバー会員 | 5%引き |
| ゴールド会員 | 7%引き |
| プラチナ会員 | 10%引き |
会員数とロイヤル顧客の比率
王将フードサービスの2026年3月期第2四半期決算説明資料によると、2025年度版ぎょうざ倶楽部のカード発行枚数は過去最高の132万枚に達しました。近年はカード発行枚数が増加傾向にあり、会員制度がリピート促進の重要な基盤になっています。さらに注目すべきは、ぎょうざ倶楽部カードの利用売上高が、上期売上高の22%まで拡大している点です。
一般的な飲食店では、ロイヤルカスタマーの定義や売上比率は業態によって大きく異なります。そのため単純な比較はできませんが、上期売上高の22%をぎょうざ倶楽部カードの利用売上が占めるという数字は、会員制度が売上に大きく寄与していることを示しています。少数のファンが、売上の大きな部分を支える構造ができています。
最上位のプラチナ会員も人気です。2025年1月から6月のキャンペーン期間で、プラチナカードは約18.9万人にのぼりました。これは運営側の想定を上回る数で、ぎょうざ倶楽部の会員のうち約14%がプラチナ会員という熱心なファン層を形成しています。
この制度がなぜ強いのか、顧客心理の面から考えてみます。スタンプを貯める行為には、達成感とゲーム性があります。あと少しで次のランクという状況は、来店の動機になります。一度上位ランクに到達した顧客は、その地位を維持したいという心理も働きます。割引という金銭的な得だけでなく、心理的な満足も囲い込みに寄与しているのです。
さらに、ぎょうざ倶楽部は2000年から続く長期の制度です。20年以上にわたって運用を続けることで、顧客との関係を世代を超えて築いてきました。短期的なキャンペーンではなく、長く続ける前提で設計されている点が、安定したファン基盤を支えています。会員数が特に伸び始めたのは2017年ごろからで、地道な積み重ねが近年の成果につながっています。
アプリと紙カードの併用
ぎょうざ倶楽部は、スマートフォンアプリと紙やプラスチックのカードを両方残しています。アプリに一本化すればコストは下げられますが、あえて併用を続けています。
理由は、コア顧客に40代から60代の層が多いとされるためです。スマートフォン操作に不慣れなシニア層にも使いやすいよう、両方の選択肢を用意しています。さらに、毎年デザインが変わるカードを集めて楽しむ顧客もいるといいます。顧客の使い勝手を最優先し、囲い込みの間口を広げる工夫です。アプリでは限定クーポンの配信やテイクアウトのネット予約にも対応し、デジタルでの接点も強化しています。
4P分析で読み解くマーケティングミックス
4P分析とは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)の4つの視点でマーケティング施策を整理するフレームワークです。餃子の王将の店舗集客を、この4つに当てはめます。
Product 製品
餃子の王将の製品は、店舗で提供する中華メニューです。看板の餃子を中心に、炒飯やラーメンなど幅広いメニューを揃えています。各店舗で職人が調理する出来たての味が、商品としての価値の核です。値上げをしながらも品質を高め続けていることが、製品力を支えています。
メニューの幅広さも強みです。餃子という看板商品を軸にしつつ、定食やセットメニューで満足感を高めています。一人客から家族連れまで、それぞれの利用シーンに合った選択肢があることで、来店の機会を広げています。看板商品で集客し、サイドメニューで客単価を上げる構造が成り立っています。
Price 価格
価格は手頃な中価格帯を維持しています。複数回の価格改定を実施しましたが、品質と接客の向上で価格上昇を納得感に変えています。さらに会員割引によって、常連客には実質的に抑えた価格を提供しています。表面価格と会員価格の二段構えが、価格戦略の特徴です。
この二段構えには、巧みな心理効果があります。会員でない客には適正な価格を提示しつつ、常連客には割引で報いる。これにより、値上げによる収益改善と、ロイヤル顧客の維持を同時に実現しています。価格を一律に下げるのではなく、通う頻度に応じて還元する設計が、利益と顧客満足の両立を可能にしています。
Place 流通
流通の中心は、京阪神を起点に全国へ広がる店舗網です。直営店とフランチャイズ店を組み合わせて展開しています。店内飲食を主力としつつ、テイクアウトのネット予約にも対応し、利用シーンの幅を広げています。
立地戦略も特徴的です。郊外の幹線道路沿いから駅前まで、さまざまな立地に出店しています。地域に根ざした日常使いの店として、生活動線の中に溶け込んでいます。特別に足を運ぶ店ではなく、通りがかりに気軽に入れる店という位置づけが、来店頻度の高さを生んでいます。
Promotion 販促
販促の柱は、ぎょうざ倶楽部とアプリです。会員制度でリピートを促し、アプリで限定クーポンや店舗情報を届けます。お気に入り店舗を登録すると、その店限定の情報が届く仕組みもあります。新規の広告よりも、既存客との関係を深める販促に重きを置いている点が特徴です。
この既存客重視の姿勢には、合理性があります。一般に、新規客の獲得は既存客への再来店促進よりもコストが高くなりやすいとされます。すでに来店経験のある客に再来店を促すほうが、効率的に売上を積み上げられます。餃子の王将は、会員制度を通じて既存客との接点を保ち続けることで、販促コストを抑えながら安定した集客を実現しています。
モデルケースから学ぶ応用の視点
餃子の王将の戦略は、大手チェーンだから可能に見えるかもしれません。しかし、その考え方は中小の飲食店にも応用できます。ここでは、どう活かせるかを整理します。
値上げを乗り切りたい飲食店
原材料費や人件費の高騰で、値上げを避けられない飲食店は多いはずです。餃子の王将に学べるのは、値上げと同時に価値を上げる発想です。料理の質を一段高める、接客を丁寧にする、店内環境を整える。価格上昇に見合う体験を用意することで、客離れを抑えられます。
値上げを伝える際も、ただ価格を上げるのではなく、何が良くなったのかを合わせて伝えることが大切です。顧客が納得できる理由があれば、値上げは受け入れられやすくなります。
リピート客を増やしたい店舗
ぎょうざ倶楽部のようなランク制の会員制度は、小規模店でも応用できます。来店回数に応じた特典や、上位ランクでの優遇を設けることで、再来店の動機を作れます。スタンプカードやLINE公式アカウントを使えば、低コストで始められます。
重要なのは、上を目指したくなる設計です。次のランクが見えていると、あと一回通おうという気持ちが生まれます。少数の常連客が売上を支える構造を、自店でも作ることができます。
常連客との関係を長く保ちたい店舗
餃子の王将が20年以上かけて会員制度を育ててきたように、顧客との関係づくりは時間がかかります。一度きりのキャンペーンで終わらせず、長く続ける前提で仕組みを設計することが大切です。
顧客層に合わせた接点づくりも参考になります。餃子の王将がアプリと紙カードを併用するように、自店の客層がデジタルに強いのか、対面を好むのかを見極めて、無理のない方法を選ぶことが続けるコツです。高齢の常連が多い店でアプリだけに絞ると、かえって離れてしまう恐れがあります。誰のための仕組みかを見失わないことが、囲い込みを成功させる前提になります。
中小飲食店が応用できる3つの視点
- 値上げと同時に料理や接客の価値を高める
- ランク制の会員制度でリピートの動機を作る
- 顧客層に合わせてアプリと紙の両方を用意する
まとめ
餃子の王将のマーケティングは、新規客の獲得よりも既存客の囲い込みに重心を置いている点に本質があります。STP分析で見ると、日常的に通える本格中華として、中高年層を含む幅広い常連層を大切にするポジションを確立しています。
価格戦略では、複数回の価格改定をしながら、品質と接客の向上で客離れを防ぎました。会員割引が値上げの緩衝材となり、ロイヤル顧客を逃さない構造を作っています。
顧客囲い込みの中核が、会員制度ぎょうざ倶楽部です。スタンプとランク制度で再来店を促し、ぎょうざ倶楽部カードの利用売上が上期売上高の22%を占めるファン基盤を築きました。4P分析で見ても、製品・価格・流通・販促のすべてがリピート促進に向けてかみ合っています。これらは規模を問わず、中小飲食店の値上げ対応やファンづくりに応用できる視点です。安さではなく満足度で選ばれる店づくりが、安定した集客への土台になります。
餃子の王将の戦略から学べる最も大切なことは、集客を一回の取引で終わらせない発想です。新規客をどれだけ集めても、再来店がなければ売上は安定しません。一度来てくれた客に、また来たいと思ってもらう。その積み重ねが、値上げに耐える強い経営につながります。会員制度や接客の質、メニューの工夫はすべて、この再来店という一点に向けて設計されています。自店でも、新規獲得と既存維持のバランスを見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
