TRIAL(トライアル)のマーケティング戦略 – 西友統合後の強みを3C・4Pで分析

TRIAL(トライアル)のマーケティング上の強みは、単なる安売りではなく、EDLP・食品・店舗DX・購買データを一体で運用していることです。
2025年7月には西友を完全子会社化し、九州や郊外型店舗に強いTRIALと、首都圏・都市部に強い西友の経営資源が組み合わさりました。今後は、拡大した店舗網とデータをどこまで利益につなげられるかが焦点です。
TRIALの直近の業績を解説
株式会社トライアルホールディングスの2026年6月期は、西友の連結によって売上高が1兆円を超えました。売上高と営業利益は大きく伸びた一方、経常利益と純利益は減少しており、規模の拡大と買収に伴う負担の両方が表れた決算です。
| 指標 | 2026年6月期 | 前期比 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆3,471億900万円 | 67.6%増 | 西友の完全子会社化により事業規模が拡大 |
| EBITDA | 699億5,300万円 | 100.2%増 | のれん償却などを除く事業の収益力は拡大 |
| 営業利益 | 303億7,100万円 | 43.9%増 | 本業では増益を確保 |
| 経常利益 | 201億8,600万円 | 9.1%減 | 支払利息や借入関連費用などが影響 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 35億2,200万円 | 70.0%減 | 営業外費用に加え、法人税等の増加も影響 |
売上が伸びても、利益面には統合コストが残る
2026年6月期の営業外費用では、支払利息約42億円、借入関連費用約67億円が計上されました。法人税等も前期の約76億円から約141億円へ増加しています。したがって、営業増益でありながら、経常利益と純利益は減少しました。
一方、会社側は2027年6月期について、売上高1兆4,582億円、営業利益390億円、経常利益286億円を予想しています。今後は西友との統合効果を、売上規模だけでなく利益へ転換できるかが重要です。
2026年6月末時点の国内小売店舗数は、TRIAL378店舗、西友243店舗の合計621店舗です。TRIALの店舗数にはFC3店舗が含まれます。また、Skip Cartはグループ外への導入を含め、288店舗・2万4,031台まで拡大しています。
※店舗数・導入台数は2026年6月末時点の決算数値であり、現在のリアルタイム店舗数ではありません。
TRIALの過去10年で行われたマーケティング施策
TRIALのマーケティングは、この10年間で「安さを伝える販促」から、購買データを使って商品・価格・売場・広告を改善する仕組みへ発展しています。POSデータを商品企画へ生かす別の事例は、Seriaのマーケティング戦略でも確認できます。
| 年・時期 | 主な施策 | マーケティング上の意味 |
|---|---|---|
| 2016年 | Joint Business Plan(JBP)の取り組みを開始 | メーカー・卸と販売計画やデータを共有し、仕入交渉だけでなく売場や流通全体の改善を目指した |
| 2018年 | Retail AI設立、アイランドシティ店をスマートストア化 | Skip CartやAIカメラを導入し、店舗を販売場所と実証場所の両方として活用 |
| 2018年 | 現在のSalesPlusを設立 | Retail AI側と電通グループの共同出資により、購買に近い店頭での広告・販促効果測定を推進 |
| 2020年 | スマートショッピングカートを他社店舗へ初めて納入 | 自社店舗向けの機器から、他社小売にも提供できるリテールDX基盤へ展開 |
| 2021年 | ムスブ宮若プロジェクトが本格始動 | 企業・大学・自治体と、商品・IoT機器・店頭コンテンツを共同検証する環境を整備 |
| 2022年 | TRIAL GO脇田店、SU-PAYを展開 | 小型店と自社決済アプリによって、日常の来店接点と決済データを拡大 |
| 2023~2024年 | リテールメディアと販促効果測定を強化 | カート画面、サイネージ、テレビCM、人流データなどを購買結果と結び付けて検証 |
| 2025年 | 西友を完全子会社化 | 首都圏の店舗網、西友のPB、製造拠点、ネットスーパーの運営基盤を獲得 |
| 2025~2026年 | 合同販促、PB相互展開、トライアル西友を開始 | 両社の商品・売場・顧客接点を組み合わせ、都市型GMSの再生モデルを検証 |
| 2026年 | 西友74店舗でインストアサイネージの順次導入を開始 | 九州中心だったリテールメディアを首都圏へ広げ、媒体価値を高める取り組み |
JBPから始まった、メーカーとの共同マーケティング
2016年に始まったJBPでは、メーカーや卸と一緒に、在庫、物流、売場、販促を改善する考え方が導入されました。小売とメーカーが個別最適で動くのではなく、データを共有しながら全体最適を目指す取り組みです。
スマートストアを広告・販促の実験場所へ
2018年にはRetail AIを設立し、Skip CartやAIカメラなどを導入したスマートストアを展開しました。さらに、SalesPlusではカート画面やデジタルサイネージを通じて広告・クーポンを配信し、広告接触後の購買まで分析しています。
なお、SalesPlusはTRIAL単独の会社ではなく、Retail AI側と電通グループの共同出資によって設立された関連会社です。テレビCM接触から来店・購買までを測定する「TV de Sales+」も、SalesPlus・電通・unerryの共同開発です。
「出来立て」の瞬間を販促に変える
近年は、商品が売れやすい時間帯を分析し、惣菜が出来上がるタイミングに合わせて店内サイネージを一斉放映する施策も実施しています。ロースかつ重の「出来立て放映」では、サイネージ非設置店舗を100とした場合、対象店舗の売上指数が161.9となる結果が公表されました。
スマートカートやサイネージという技術分野自体は、TRIALだけのものではありません。TRIALの特徴は、これらを多数の実店舗で運用し、決済・購買データ、商品開発、価格設定、店頭広告、メーカーとの共同販促までつなげている点にあります。
TRIALの3C分析
物価上昇を背景に、生活必需品では価格への反応が強くなっています。一方、安さだけでなく、惣菜のおいしさ、品揃え、レジ待ちの短さ、店舗の近さも重視されています。
食品スーパー、総合スーパー、ディスカウントストアに加え、食品を強化するドラッグストア、コンビニ、ネットスーパーも競合になります。
EDLP、食品・PB、複数の店舗フォーマット、自社で検証できる店舗DX、購買データ、西友の都市部店舗網が主な経営資源です。
Customer|価格だけでなく、食と時短も求められている
2025年の消費者物価指数は前年比3.2%上昇しました。二人以上の勤労者世帯の実収入は、名目では増加したものの実質では0.9%減少しており、生活防衛意識が続いています。
大型郊外店の立地や品揃えからは、ファミリー層やまとめ買い需要が主要な利用場面の一つと考えられます。ただし、これは公表された顧客構成ではなく、店舗形態からの分析です。TRIAL GOや西友では、都市部での少量・高頻度購入にも対応しています。
- 日常的に利用できる低価格
- 生鮮食品や出来立て惣菜の品質
- 一度の来店で買い物を終えられる品揃え
- Skip Cartなどによる会計時間の短縮
- 生活圏内で利用できる店舗の近さ
Competitor|競争相手はスーパーだけではない
TRIALの直接的な競合には、総合スーパー、食品スーパー、ドン・キホーテ、ラ・ムー、MrMaxなどのディスカウント業態があります。さらに、食品販売を強化するドラッグストア、コストコなどのまとめ買い型店舗、Amazonやネットスーパーも同じ生活費を奪い合う競合です。
経済産業省によると、2025年はスーパーだけでなく、ドラッグストアの販売額も前年比5.5%増加しました。競争軸は「価格」だけでなく、食品の品質、買い物時間、店舗の近さ、デジタル上の利便性へ広がっています。
Company|店舗とテクノロジーを同じグループで運用
EDLPを支えるローコスト運営、生鮮・惣菜・PB、Skip Cartやサイネージを検証できる実店舗、購買データ、複数の店舗フォーマット、西友の都市部店舗網です。
売上高営業利益率は2.3%で、価格競争やコスト上昇の影響を受けやすい状態です。西友買収に伴う借入負担と、店舗運営・商品・システム・組織の統合も課題です。
3C分析の結論:TRIALは、節約志向という市場環境と相性がよい一方、価格だけではドラッグストアやディスカウント業態との差が縮まります。食品・利便性・データ活用まで含めた総合力が差別化の鍵です。
TRIALの4P分析
Product|食品・生活必需品と買い物体験
TRIALは、食品、日用品、家電、衣料品、住居用品までを扱う生活必需店です。近年は特に、生鮮食品、出来立て惣菜、PBを強化しています。
西友との統合後は、西友が育成してきたPB「みなさまのお墨付き」をTRIAL店舗へ展開し、TRIALの惣菜やPBを西友店舗へ導入しています。Skip Cartによるレジ待ち時間の短縮や、サイネージによる商品情報の提供も、広い意味では商品に付随する買い物体験です。
Price|EDLPとデータを使った価格設定
価格戦略の基本は、特売日に限らず日常的な低価格を目指すEDLPです。2026年6月期には、地域一番価格を目指す商品を分かりやすく示す「エキサイティングプライス」を導入しました。
同時に、購買データを使った価格設定の精緻化、帳合統合による仕入・取引条件の効率化、PBや惣菜の強化を進めています。すべての商品を一律に安くするのではなく、集客に使う価格訴求品と、独自価値を伝える価値訴求品を組み合わせる考え方です。
Place|郊外大型店から都市型小型店まで
TRIALは、郊外のメガセンター・スーパーセンター、中規模のsmart、都市型小型店のTRIAL GOを展開しています。西友の都市部店舗、両社の強みを融合した「トライアル西友」、ネットスーパーも加わりました。
これにより、休日のまとめ買い、日常の食品購入、駅前での短時間購入、オンライン注文など、異なる買い物場面をカバーできます。実店舗からオンラインへ顧客をつなぐ基本的な考え方は、小売店のネット通販の始め方でも詳しく解説しています。
Promotion|広告接触から購買までを測定
TRIALのプロモーションで特徴的なのは、広告を配信して終わらず、その後の購買結果まで確認しようとしている点です。
インストアサイネージやSkip Cartの画面を使い、買い物中の顧客へ商品情報やクーポンを届けます。
SU-PAY、ポイント、購買状況に応じたクーポンなどを、決済の利便性や再来店につなげます。
メーカーとの共同キャンペーンやTRIAL・西友の合同販促により、商品と店舗の双方で接点を増やします。
個人データをそのままメーカーへ渡すという意味ではなく、購買データ等を分析し、広告が販売へどう結び付いたかを検証します。
西友との統合後は、2026年3月から首都圏の西友74店舗を対象にインストアサイネージの順次導入を開始しました。従来は販促費として扱われやすかった店頭広告を、メーカーへ価値を提供するリテールメディア事業へ発展させようとしています。アプリと店内サイネージを組み合わせる比較事例としては、ファミリーマートのマーケティング戦略も参考になります。
まとめ|TRIALは安売り店から小売プラットフォームへ
TRIALのマーケティング戦略は、「EDLPによる集客 × 食品・PBによる来店理由 × 店舗DXによる利便性 × 購買データによる改善」と整理できます。
過去10年間でTRIALは、安さを強みにするディスカウントストアから、店舗、商品、価格、広告、データを一体で運用する小売プラットフォームへ変化してきました。
西友の完全子会社化によって、売上高は1兆円を超え、都市部の店舗網、PB、製造拠点、ネットスーパーという新たな経営資源も加わりました。
一方で、買収に伴う利息・借入関連費用、統合作業、低い利益率といった課題も残ります。今後の評価を左右するのは店舗数や売上高の大きさだけではありません。TRIALと西友の商品、店舗網、購買データ、リテールメディアをつなぎ、安さを維持しながら利益を生む仕組みを確立できるかが重要です。
一次情報を種類別にまとめています。確認したい項目を開いてください。
店舗DX・マーケティング施策
市場・消費動向の公的統計
情報・数値は2026年9月17日時点で確認しています。将来予想は会社公表値であり、実際の業績を保証するものではありません。
