地方の飲食店の集客戦略|目的来店を引き起こすための対策一覧

最初に結論

地方の飲食店が集客を増やすには、「この店に行きたい」と思ってもらえる理由が必要です。

人口密度が低い地域では、店の前を通る人や、近隣に住む人だけで十分な来店数を確保できるとは限りません。価格を下げて集客しようとしても、仕入れや調理の効率に強みを持つ大手チェーンとの競争になり、利益を残しにくくなります。

そこで重要になるのが、特定の料理や体験を目当てに訪れる「目的来店」を増やすブランディングです。

この記事では、地方の飲食店が抱える集客の問題を整理し、山形県鶴岡市の琴平荘とアル・ケッチァーノの事例から、選ばれる価値のつくり方と、その伝え方を解説します。

地方の飲食店が抱える集客の問題点

人口密度が低く、近隣客だけでは集客に限界がある

人口密度が低い地域では、都市部と同じ距離の範囲を商圏としても、対象となる住民の数が少なくなります。

さらに、車で移動する生活圏では、「家から近い」という理由だけで選ばれるとは限りません。通勤や買い物の途中にあるチェーン店、駐車しやすい郊外店も選択肢に入るためです。

常連客との関係は大切ですが、近隣の人口や来店頻度に頼り切ると、売上を伸ばす余地が限られます。地域によっては、人口減少や顧客の高齢化に伴う需要の変化にも対応する必要があります。

日常の外食予算に限りがあり、単価を上げる理由が伝わりにくい

地方の飲食店では、都市部と同じ外食需要や価格帯を前提にできない場合があります。地域の所得、世帯構成、外食の習慣によって、食事に使える金額や利用頻度が異なるためです。

地域差を調べる際には、総務省の家計調査にある都市階級別・地域別の支出が参考になります。ただし、世帯の外食支出には利用頻度なども影響するため、その金額をそのまま飲食店の客単価と捉えることはできません。

お客様から「普段の昼食を済ませる店」と認識されていれば、値上げした際に、より安い店と比較されやすくなります。

一方、「あの料理を食べたい」「家族のお祝いで利用したい」という理由があれば、料理やサービスを含めた価値で検討してもらえます。単価を上げるには、その価格を支払う理由も伝える必要があります。

冠婚葬祭や地域行事の大人数需要に頼りづらい

冠婚葬祭や地域行事の会食は、地方の飲食店にとってまとまった売上を得られる機会です。

ただし、家族だけで行う、会食を省略する、必要な部分にだけ費用をかけるなど、開催方法が変われば、飲食店に入る注文の人数や内容も変わります。以前と同じ大人数の宴会や仕出しを見込むだけでは、売上を維持しづらくなります。

なお、簡略化や少人数化と、費用の低下は同じではありません。「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」では、招待客人数と挙式などの費用総額は、コロナ禍の減少後に回復しています。冠婚葬祭全体が一律に低予算化していると捉えるのではなく、自店の予約人数・件数・予算の変化を確認することが大切です。

従来の団体需要に加えて、少人数でも選ばれる会食や、普段から来店したくなる理由を育てておく必要があります。

地方の飲食店に必要なのは、目的来店を生むブランディング

安く、早く、お腹を満たしたいという需要に対して、牛丼や回転寿司などの大手チェーンは強い競争力を持っています。

大量仕入れ、調理工程の標準化、設備への投資などを積み重ねているため、同じ価格と提供速度だけで競おうとすると、地方の飲食店は利益を圧迫されやすくなります。

そこで考えたいのが、「価格以外の何を理由に、自店を選んでもらうか」です。

たとえば、「この中華そばを食べたい」「この土地の旬の食材を味わいたい」「両親の記念日を安心して任せたい」といった理由です。

ブランディングとは、お客様の中に「この目的なら、この店」という認識を育てることです。

必ずしも高級店になる必要はありません。日常的に食べるラーメンでも、味や体験に明確な魅力があれば、わざわざ足を運ぶ目的になります。

まず地元のお客様に繰り返し選ばれる価値を磨き、その評判を、近隣市町村や遠方のお客様にも伝えていきます。

地方から目的来店を集めた飲食店の事例

琴平荘|旅館の閑散期対策から、全国のラーメンファンが訪れる店へ

山形県鶴岡市の琴平荘は、旅館の閑散期である冬の集客対策として、2002年に中華そばの提供を始めました。

店主の掛神淳氏は、研究と試作を重ね、2010年にはトビウオの焼き干しの自作を開始。全国からラーメンファンが訪れる行列店へと成長しました。

本人のインタビューでは、焼き干しの自作には、仕入れていた原料が不漁で手に入らなくなった事情も語られています。味を追求する取り組みと、安定して提供するための工夫が結びついていたのです。

この事例から学べるのは、身近な食事でも、看板商品を磨くことで目的来店を生み出せるということです。

「近くにあるから食べる中華そば」から、「その中華そばを食べるために出かける店」へ。商品の魅力が、商圏を広げる力になります。

アル・ケッチァーノ|庄内の食材と生産者を、訪れる理由に変える

同じ鶴岡市にあるアル・ケッチァーノは、庄内の食材を生かした料理で知られるレストランです。

運営会社は、生産者の顔が見えるメニューを提供し、「わざわざ食べに行くレストラン」として人気を集めてきたと紹介しています。本店は2022年7月に移転し、料理教室などを行うアカデミーも併設しました。

奥田政行シェフの取り組みは、地元食材を仕入れることにとどまりません。在来作物の個性を生かす料理を通じて、庄内の食文化や生産者の仕事を伝えてきました。

「食の都庄内」親善大使としての活動や、2006年の『情熱大陸』出演なども、その取り組みを広く知ってもらう接点になっています。

集客の視点で見ると、「庄内の食材を、この料理人の表現で味わう」という価値が、店を訪れる理由になっていると考えられます。

地域の食材は、使うだけで差別化が完成するわけではありません。生産者との関係、食材の扱い方、料理としてのおいしさまでつながることで、その土地へ行く意味が生まれます。

戦略① 誰に、どのような価値を提供するのかを決める

「地元の人を集客したい」だけでは、対象が広すぎます。

同じ地域に住んでいても、仕事の合間に昼食を取る人と、家族の記念日を祝う人では、求める料理、滞在時間、予算が異なります。

まずは、自店が特に応えたい利用場面を具体化しましょう。

対象と利用場面の例求められる価値店づくりに反映すること
近隣で働く人の平日ランチ限られた時間で、満足できる食事を取れる看板料理、提供時間、駐車しやすさ
地元の家族の誕生日・結婚記念日大切な人と落ち着いて食事を楽しめるコース、席の環境、お祝い対応、予約時の相談
休日に食べ歩きをする人移動してでも食べたい一品に出会える看板料理の独自性、写真、営業・受付案内
地域を訪れる旅行者その土地ならではの味を楽しめる地域食材、料理の説明、アクセス、予約方法

これらはターゲット設定の例です。自店の注文内容や来店理由を確認し、実際に支持されている価値と照らし合わせます。

そのうえで、「誰が、どんな場面で、何を期待して来る店か」を一文にまとめます。これが明確になると、メニュー、価格、接客、発信内容を同じ方向にそろえやすくなります。

戦略② 目的来店したくなるストーリーを伝える

ストーリーとは、なぜその場所で、その料理を提供しているのかという背景です。

「こだわりの食材を使用しています」だけでは、他店との違いが伝わりません。次のように、実際の行動まで具体化することが大切です。

  • なぜ、その食材や料理を選んだのか
  • 誰が、どのように食材を育てているのか
  • おいしくするために、どんな工夫を重ねているのか
  • その工夫によって、お客様は何を味わえるのか

琴平荘であれば、旅館の冬の仕事として始めた中華そばを磨き、原料の焼き干しまで自作するようになった背景があります。

アル・ケッチァーノであれば、庄内の食材や生産者の魅力を料理で伝える活動があります。奥田シェフは出版物でも生産者の取り組みを紹介しています。

ストーリーは、実際の取り組みと料理のおいしさを結びつけて伝えることで、来店する理由になります。

ホームページでは詳しい背景を紹介し、メニューでは短く説明し、SNSでは日々の仕込みや生産者とのやり取りを見せる。同じ価値を、それぞれの媒体に合う形で伝えましょう。

戦略③ オンラインで知ってもらい、来店・予約につなげる

ホームページに、魅力と来店に必要な情報をそろえる

ホームページは、お店に興味を持った人が、詳しい内容を確認する場所です。

看板料理の写真やストーリーに加えて、価格、営業時間、定休日、所在地、駐車場、予約方法などを掲載します。車での来店が多い店舗では、駐車場の入口や満車時の案内も役立ちます。

予約を受ける店舗は、料理やコースの紹介から予約画面へ進めるようにしましょう。空席が確認でき、必要な情報を少ない手順で入力できれば、予約途中の離脱を減らしやすくなります。

予約を受けない店舗では、受付方法や売り切れ時の扱いなどを分かりやすく案内します。

詳しく正確な公式情報を公開することは、検索やAI検索に店舗の内容を理解してもらう基盤にもなります。ただし、ページを作れば必ずAIが公式サイトを表示するわけではありません。まずは、お客様が知りたい情報を正確に掲載することを優先しましょう。

MEO対策で、Googleマップから見つけてもらう

MEO対策は、Googleマップなどの地域検索で店舗を見つけてもらい、来店を検討しやすくする取り組みです。

Googleビジネスプロフィールには、ホームページと一致する店名・住所・電話番号を掲載し、営業時間、祝日の営業、メニュー、写真を更新します。

地域検索では、検索内容との関連性、距離、知名度などが関わります。口コミ数や評価も関係しますが、情報の整備や口コミ収集だけで順位が決まるわけではありません。

口コミは、実際に利用したお客様へ、率直な感想の投稿を案内しましょう。100件を運用上の目標に置く場合も、それはGoogleの必須条件ではありません。来店数や周辺の競合状況に合わせて考えます。

Instagramを、写真や動画で料理を選べるメニュー表として運用する

Instagramは、来店前に「何を食べようか」と考えられる、メニュー表のように運用すると、お店の魅力を伝えやすくなります。

プロフィールから投稿一覧を見たときに、看板料理、定番メニュー、季節の料理が分かるように写真や短い動画をそろえます。料理名、価格、味の特徴、ランチ限定などの提供条件も添えることで、来店後の食事を具体的にイメージしてもらえます。

たとえば、看板の中華そばなら、料理全体が分かる写真に加え、麺を持ち上げる動画やスープの特徴を紹介します。コース料理なら、料理の一例と品数、価格を示すと、利用場面や予算を判断しやすくなります。

  • 投稿一覧には料理の写真をそろえ、何が食べられる店かを伝える
  • 看板料理や初めての方向けの案内は、固定投稿で見つけやすくする
  • メニューや営業案内は、ハイライトにもまとめる
  • 店名・地域・料理名を本文やプロフィールに明記し、関連するハッシュタグや位置情報を添える
  • 価格変更や提供終了時は案内を更新し、最新メニューや予約ページへ誘導する

営業時間のお知らせだけで投稿一覧が埋まると、料理の魅力が伝わりにくくなります。日々の連絡はストーリーズも活用し、一覧では「食べたい」と思える料理を見せましょう。

Xは、日々の情報とお客様との会話に活用する

Xでは、その日の仕込み、季節の食材、営業案内などを継続して発信し、お客様との会話を重ねる運用が考えられます。

X Premiumには返信の優先表示に関わる機能がありますが、加入だけで来店が増えるとは限りません。日常的に発信や返信を続けられるか、対象のお客様との接点があるかを踏まえて判断しましょう。

LINE公式アカウントで、再来店のきっかけを届ける

LINE公式アカウントでは、来店したお客様に友だち登録を案内し、その後も店を思い出してもらう接点をつくります。

配信内容は、割引だけに頼る必要はありません。

「今年もこの食材が入りました」「季節のコースが始まります」「帰省するご家族との会食予約を受け付けています」など、自店の価値に合う来店理由を届けます。

新規客には「行ってみたい理由」を、既存客には「また行きたい理由」を伝えると考えると、発信内容を整理しやすくなります。

興味・関心を高めるために取り組みたいこと

評価が伝わるグルメイベントやコンテストに参加する

グルメイベントや料理コンテストは、初めてのお客様に料理を知ってもらう機会になります。

特に、審査や投票によって入賞する形式では、結果を第三者からの評価として紹介できます。受賞実績に加え、地域食材の活用や独自の取り組みがあれば、メディアに情報提供する際の材料にもなります。

参加先は、来場者と自店のターゲットが合っているか、評価方法が明確か、出店費用や人員に見合うかで選びます。

会場で食べてもらった後に、店舗の場所や営業情報を確認できるようにしておくことも必要です。イベントでの売上だけで終わらせず、その後の来店につなげましょう。

看板メニューを明確にする

何でも提供できることが、必ずしも強い集客につながるとは限りません。

初めて店を知る人には、「この店では何を食べるべきか」が分かることが重要です。ホームページの最初の写真、SNSの固定投稿、店頭の案内で、同じ看板料理を伝えましょう。

メニューの整理は、運営面にも関わります。注文が少ない料理のために専用食材を持ち続けると、廃棄や仕込みの負担が増えやすくなります。

ただし、品数が多ければ必ず原価率が上がるわけではありません。食材を共通化できる料理や、常連客が楽しみにしている料理もあります。

来店理由になる看板料理を明確にし、売れ方・利益・仕込み負担を見ながら、周辺メニューを整理することが大切です。

店内でも、発信している価値を体験できるようにする

SNSやホームページで魅力的に伝えても、実際の食事で期待に応えられなければ、継続的な来店にはつながりません。

地域食材を強みにするなら、その食材のおいしさが伝わる料理と説明を用意する。記念日の利用を重視するなら、予約時の相談から当日の接客まで整える。

来店前に伝えた価値と、店内で得られる体験を一致させることが、口コミや再来店の土台になります。

地方の飲食店は「来店する理由」を決めてから集客施策を選ぶ

地方の飲食店が集客を改善するには、最初に、誰にどんな価値を提供するのかを明確にする必要があります。

その価値を看板料理や接客で実現し、ストーリーとして伝え、ホームページ・Googleマップ・SNSから来店につなげます。来店後は、LINEなどで再訪のきっかけを届けましょう。

取り組みの成果は、閲覧数やフォロワー数だけでなく、看板料理を目当てに来た人の数、予約件数、客単価、再来店、利益で確認します。

「地方だから集客できない」で終わらせず、「この店で食べるために出かけたい」と思ってもらえる価値を、一つずつ積み重ねていきましょう。

参考資料・出典
小形 洸太

この記事を書いた人

小形 洸太

マーケティングプロデューサー、集客コンサルタント。大学卒業後、店舗マーケティングツールのASPにて、500店の顧客フォロー及び導入支援業務に従事。その後、2009年からコンサルティングを提供開始。助言だけではなく、対策もできるコンサルタントとして活動。主に、マーケティング関連のディレクション業務を行い、オウンドメディア運用、SNSキャンペーン、実店舗の集客支援を実施。

集客の専門家として、ミラサポや信用保証協会専門家、商工会専門家などの立場で事業主向けに助言業務を実施。また、リクルートや第一興行のメディアでSNSを使った集客の記事の監修。

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