中小企業の鉄板戦略ランチェスター戦略とは?弱者の戦略を理解して独自の成長を遂げる

ランチェスター戦略は、競争を前提とした経営戦略の一つです。第一次世界大戦での航空戦の研究から生まれ、「同じ武器なら勝敗は兵力数で決まる」という前提のもと、弱者と強者の戦略に分けられます。弱者は近接戦を、強者は広範戦・遠隔戦を選ぶべきとされています。

ただし、強者=大企業ではありません。市場1位が強者で、2位以下が弱者に該当します。

ほとんどの企業は弱者に分類されるため、注目すべきは、弱者の戦略です。市場において弱い立場にある企業が、リーダー企業に対抗するためには、弱者ならではの独自の強みを武器に、限定された領域で優位性を確立することを目指す必要があります。弱者の戦略は、選択と集中を基本とする戦法を繰り出し、競争を回避しつつ独自の成長を実現していきます。

目次

1.ランチェスター戦略の弱者の戦略の5つの戦法とは?

弱者の戦略とは、市場シェア2位以下の企業が、限られたリソースを活かしてシェア1位の強者である企業に対抗するための戦略です。

差別化を基本とし、局地戦、接近戦、一騎討ち戦、一点集中主義、陽動戦の5つの戦法を駆使して、大企業との競争を有利に進めます。4P(製品、価格、チャネル、プロモーション)などのマーケティングミックスのように、これらの戦法を組み合わせて戦略を練ります。

弱者の戦略では、5つの要素をフレームワークにしています。

戦法内容
1.局地戦競争の場を全市場ではなく、特定の地域やセグメントに限定し、そこに資源を集中させて優位に立つ。顧客単価が高く、未参入のセグメントを狙う。
2.接近戦競合との直接対決は避け、顧客との距離を縮めることに注力。Face to Faceの関係構築によって、顧客との関係性を高める。
3.一騎討ち戦多数の競合を相手にするのではなく、特定の1社に照準を絞って戦う。相手を選ぶことで勝算を高める。
4.一点集中主義自社の強みが最も発揮できる領域に経営資源を集中させ、他を犠牲にしても一点突破を図る。独自の強みに特化して、競合他社との明らかな差別化を達成する。
5.陽動戦(ゲリラ戦)競合の盲点を突く意表を突いた戦略で、相手を翻弄する。非連続的なイノベーションや突然の新機能のリリースも陽動戦に入る。

1-1.局地戦

局地戦は、市場全体ではなく、特定の地域や顧客セグメントに照準を絞って資源を集中投下する戦略です。強者と全面対決するのではなく、自社の強みを活かせるニッチな領域を選択し、そこで優位性を確立することを目指します。限られた資源を分散させず、狭い範囲に集中することで、相対的な競争力を高めるのがポイントです。

例えば、自動車販売関連であれば、もっとグレードの高い車に乗りたいと思っている人向けに高級車を専用で扱う店舗やアクセサリーを専用で扱う店舗などが挙げられます。

1-2.接近戦

接近戦は、競合他社との直接対決を避け、顧客との距離を縮めることに注力する戦略です。価格や性能での競争ではなく、顧客とのコミュニケーションを重視し、Face to Faceの関係構築を通じて信頼を獲得します。特に重要な顧客に対しては、深い理解と手厚いサポートを提供することで、忠誠心を高めていきます。

例えば、家電量販店は、店舗型が一般的です。電話をすれば自宅に来てくれて、家電選びから搬送を手伝ってくれる形態をとることで、競合店舗を選びづらくなります。

1-3.一騎討ち戦

一騎討ち戦は、多数の競合ではなく、特定の1社に照準を絞って戦う戦略です。自社にとって最も脅威となる競合企業を見定め、その企業の弱点を突くことに注力します。相手を絞ることで、限られた資源を効果的に投入でき、勝算を高めることができます。

ただし、標的とする企業は、自社よりも上位のシェアを持っているか、急成長を遂げている企業を選びます。少なくとも、勢いがなくなっている企業を標的にしても、方向性が成長とは異なる部分に向いてしまいますので意味がありません。

1-4.一点集中主義

一点集中主義は、自社の強みが最大限に発揮できる領域に、経営資源を集中的に投下する戦略です。他の領域は犠牲にしても、勝負すべき一点に全てを集約させ、圧倒的な競争優位を確立することを目指します。この戦略は、自社の強みと市場機会を正確に見極めることが大前提であり、集中すべきポイントを慎重に選定する必要があります。

例えば、顧客インタビューを繰り返し、重要な改善意欲の強い問題に特化することが挙げられます。整体院であれば、肩こりに特化します。

1-5.陽動戦

陽動戦は、競合の予想外の行動を取ることで、相手を混乱させ、優位に立つものです。競合が対応しきれないような斬新なアプローチを採用し、一時的であっても主導権を握ることを狙います。新たな技術やビジネスモデルの導入、意外な提携やM&Aなど、常識にとらわれない一手を打つことが求められます。ただし奇をてらうだけでは意味がなく、あくまで自社の強化につながる打ち手を指しています。

例えば、OpenAIは、AI業界では強者ではありますが、競合に先立った機能拡張を繰り返しており、画像生成機能であるDALL·E 3や高水準な動画を生成するSoraなどの機能を突発的にローンチしています。

2.弱者の戦略の重要なポイント

弱者の戦略で重要なのは、「選択と集中」の思想です。限られた経営資源を最大限に活用するためには、自社の強みを活かせる領域を見極め、そこに資源を集中的に投入することが不可欠です。強者と同じ土俵で競争するのではなく、自社ならではの独自の価値を提供することが、弱者の生き残りと成長のカギとなるのです。

2-1.ニッチなセグメントで高単価を狙う

弱者は、強者が手掛けないような細分化された市場を攻略することで、優位性を築くことができます。例えば、高級車オーナー向けの専用アクセサリーショップなど、ニッチな顧客層のニーズに特化することで、高単価・高マージンを実現できます。強者が参入しにくい領域で、独自の価値を提供することが重要です。

2-2.購入意欲が高いセグメントを狙う

自社の製品やサービスに対する購入意欲が高い顧客層を見極め、そのニーズに徹底的に応えることで、強固な顧客基盤を築くことができます。例えば、専門的な知識を持つスタッフが揃い、豊富な品揃えを誇るプロ向けのショップなどは、高い購入意欲を持つ顧客を惹きつけることができます。

2-3.良質な市場には集中して出店する

魅力的な市場が見つかったら、そこに経営資源を集中的に投下することが重要です。例えば、セブン-イレブンの「ドミナント出店戦略」は、特定の地域に集中的に出店することで、物流やオペレーションの効率化を図りながら、地域のニーズに合わせた品揃えを実現しています。良質な市場に集中することで、シェアを高め、収益性を向上させることができます。

2-4.顧客の利便性を重視したビジネスモデルを採用する

ターゲットにする顧客層が若年層であったり、基本的にネット通販を当たり前のようにこなす顧客層であれば、ECサイトを使い、広い商圏で勝負します。それに対して、顧客フォローが必要だったり、店舗に直接足を運ぶことを当然とする顧客層では、店舗を構えますが、ポジションが重複する強い競合が存在する立地からは距離をとります。

3.弱者の戦略で成功した実例

3-1.3coins:社内インフルエンサー制度で接近戦を展開

生活雑貨ショップ3coinsは、社内インフルエンサー制度を導入し、顧客との距離を縮める接近戦を展開しています。店舗スタッフがSNSを通じて積極的に商品情報を発信し、フォロワーとの交流を深めることで、ブランドへの共感と愛着を醸成します。店舗スタッフを身近なインフルエンサーとして活用することで、接近戦に成功し、広告費をかけずに全国に店舗を増やしています。

3-2.HIS:局地戦と差別化で旅行業界に新風を吹き込む

HISは、弱者の戦略で急成長した有名な事例の1つです。

旅行会社の HIS は、大手旅行会社が主力としていた添乗員が同行する海外パッケージツアーとは一線を画し、個人旅行者向けの格安航空券の販売に特化することで、差別化を図りました。当時ニッチだった個人旅行市場を開拓し、独自の価値を提供しています。

3-3:やずや:差別化と接近戦で健康食品市場に新風を吹き込む

健康食品メーカー「やずや」は、創業当初、他社製品の販売代理店として事業をスタートさせました。同業他社との差別化を図るため、創業者の矢頭氏は広告コピーの工夫や、手書きのハガキ、懇親会での丁寧なフォローなど、”売り方”に独自の強みを発揮。顧客との距離を縮める接近戦で、着実に売上を伸ばしていきました。

しかし、更なる成長を目指すためには、自社オリジナル商品の開発が不可欠との助言を受け、1991年に大麦若葉を使った「養生青汁」の販売を開始。キューサイの青汁が冷凍ジュースであったのに対し、やずやは顆粒スティックで持ち運びに便利かつ美味しい商品で差別化を図りました。さらに、通信販売という販売チャネルにも工夫を凝らし、商品開発物語を盛り込んだ手紙風のチラシで顧客の共感を獲得しました。当時は珍しいダイレクト・リレーション・マーケティングの最先端の事例でもあります。

3-4:ジャパネットたかた:通販業界の常識を覆す独自戦略

通販会社「ジャパネットたかた」は、独自の方法でお茶の間やドライバーに接近した販売方法を実現しました。

高田氏は、商品を売るだけでなく、「お客様の喜ぶ顔が見たい」という想いを大切にし、徹底的にお客様目線に立ったサービスを提供。電話オペレーターの徹底した教育や、商品の魅力を伝える工夫を凝らした自社スタジオからのテレビ通販番組など、他社とは一線を画す取り組みで差別化を図りました。また、高田氏自らがテレビ通販番組で商品を紹介することで、顧客との距離を縮める接近戦も展開。親しみやすい印象を確立し、顧客からの信頼を獲得し、お得な商品を売る社長として記憶にも定着されました。

ラジオにも積極的に投資を行なっており、雑談スタイルのプレゼンテーション型番組を積極的に行なうことで、運転中のドライバーにも直接セールスすることに成功しました。

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最終更新日 2024年3月31日

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